2010年8月31日火曜日

書評・夏休み読書感想文・その2

この夏に読んだ本のなかから。その2です。その1はコチラ

高橋洋一『日本経済のウソ』


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日本経済のウソ
高橋洋一
 本書は著者が各種媒体で書いた文章を再構成したものだ、と思う。そのためか、ちょっと読みにくかった。でも著者の従来の主張を最近の数字で語り直したという感じで、リフレ政策支持者の新しい弾薬庫、といった趣がある。例えば、
 
・「麻生政権の財政出動では十分ではありませんでした。経済規模から見れば、GDPが日本の2.4倍のアメリカで78兆円、日本とほぼ同じGDPの中国で56兆円の景気刺激策でしたが、日本の第二次補正予算は14兆円でした。」(pp. 24)

・「2009年の政権交代時、日本の10年国債の利回り(収益の割合)は1.2%、10年物価連動国債の利回りは2.4%です。これから一般物価の将来予想はマイナス1.2%となります。一方、アメリカの10年国債の利回りは3.2%、10年物価連動国債の利回りは1.5%です。これから一般物価の将来予想はマイナス1.7%となります。したがって、日本とアメリカで、それぞれ名目金利は1.2%と3.2%、実質金利は2.4%と1.5%です。このように実質金利が日本のほうが高いので、今後日本の設備投資に懸念があるのは当然です。」(p.27)

追記:2010/Oct/13
上の引用箇所でアメリカの一般物価の将来予想が「マイナス1.7%」というのはおかしい、という指摘をコメント欄で頂きました。本書で確認したところ「マイナス1.7%」となっていましたが、そこがマイナスだとアメリカもデフレということになってしまうので、本書自体(と僕の引用)のミスですね。 (追記終わり)


 日本の経済対策が不十分なこと、日本の金利は特別低いわけじゃないこと、こういったことが2008年以降、世界経済の停滞と各国の対策を経て証明されてしまったのだ。あと、本書にあるグラフはどれも日銀の仕事ぶりをこれでもかというくらい浮き彫りにするもので、強く印象に残った。

 個人的には為替介入の仕方が2000年以降変わったというところが勉強になった。介入のための資金は市場を通して調達されているので、ただ介入しただけではハイパワードマネーは増えない。これはまったくの不勉強でした。言い訳をすれば、日銀があれだけ介入を嫌がるもんだから、日銀が介入のための資金を供給してるのかと思うのは人情ってもんでしょう。現実にはそうではなくて、日銀が国債を買い上げない限り、市場のお金が移動するだけということらしい。いや勉強になりました。

 奇妙なことにこの本にも「成功にとりつかれた日本の中高年男性」の影がちらついてるような気がする。

狩集紘一『暴力相談 「こわがらせる人」との交渉術』


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暴力相談
狩集紘一
 本屋でなんとなく手にとってみたら面白そうだったので買ってみた本。で、面白かった。なによりもとても実践的なので、これを読んで損する人なんてそうそういないだろう。

 著者は警察官として暴力団対策に携わってきた人で、引退後、その経験と知恵を市民と共有する活動をしているそうだ。暴力団やそんな感じの人と接触したときにどうすればいいのか、その方法をかなり具体的に(どんなふうに話せばいいのかというぐらい具体的に)、解説しているうえに、脅しつける人の心理まで解説していて、「なるほどな」「やっぱりな」と納得すること請け合いだ。そして彼らの心理を知ってしまうと、あんまり怖くなくなっちゃうんですな。なのでどうも話しの通じないオジサンとお付き合いのあるかたは是非どうぞ。

 ところでアマゾンのレビューを見ると、対策がどれも同じという批判があるけど、その通り。それは副題にもなっている「こわがらせる人」ってのが一種類しかいないってことを示唆している。つまり「成功にとりつかれた男性」ってことだと思う。もちろん実際の現場はそれぞれ事情が異なるだろうし、予想のできないことが起こったりもするだろうけど、本書が提示する対策には説得力があると思う。

ヤマザキマリ『イタリア家族 風林火山』


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イタリア家族
風林火山
ヤマザキマリ
 あの『テルマエ・ロマエ』の作者のエッセイ漫画。買うかどうかとても悩んだ本だ。エッセイ漫画にはただでさえ薄い財布をペッタンコにされてきたので、どうしても警戒してしまう。が、本書は文句なくおすすめです。『テルマエ・ロマエ』の主人公ルシウスのモデルは著者の旦那さんだ、という話はどこかで聞いていたんだけど、僕が想像していた夫婦像とはまるでちがった。きっとみなさんが想像しているものともちがうだろう。とにかく意外だった。そもそも著者がこういう感じの人だとは『テルマエ・ロマエ』からは想像できなかったなあ。そしてさらに、著者と旦那さんの馴れ初めは必読だ。読み始めて三十数ページ、不覚にも号泣してしまった。その他は爆笑してました。9月には『テルマエ・ロマエ』の2巻が出るそうでそちらも楽しみです。

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テルマエ・ロマエII
ヤマザキマリ
 当然だけどこの本には「成功にとりつかれた日本の中高年男性」の影はちらついていない。むしろ「オマエはいったい何にとりつかれているんだ、というイタリア男性」の影というか、男性に限った話でもない何かがちらついているというかモロ見えだ。




ロバート・I・サットン『あなたの職場のイヤな奴』


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あなたの職場の
イヤな奴
ロバート・I・サットン
 ひどい労働環境で働いている友人の誕生日に贈るので久しぶりに読み返してみた。とにかく、じっと耐えていればイカれてる職場が勝手に治ったりすることなんてないし、沈みゆく船につきあう贅沢が許されるほど人の一生は長くない。直接的な因果関係があるとは言わないけど、やっぱ日銀仕事しろと改めて思った。日銀という職場がイカれてるのかもしれないけど。

 当然、この本には「成功にとりつかれた男女」の話しか載っていない。自分は大丈夫と思ったら、それが「クソッタレ」病のサインです。

書評・夏休み読書感想文・その1

毎日暑くて眠れない夏。だらだらするだけで疲れちゃう日々なのでブログもサボってたけど再開しよう。

そんな日々に読んだ本から何冊か、夏休みの宿題っぽく感想文を。今回はその1。その2まであります。

久繁哲之介『地域再生の罠』


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地域再生の罠
久繁哲之介
面白かった。何が面白いって、「あの地方都市はなんだか景気がいいって評判だけど、それってホント?」という疑問に答えてくれるから。本書によれば、なんてことはない、成功している地方都市というのは、それほど突飛な方法を使ったりしてなくて、地元の市民、企業、役所が地道に活動した結果だったりするので、大きな商業施設を立てて成功した! とか、大きなイベントを開催して成功した! という話は「成功にとりつかれた日本の中高年男性」の虚しい遠吠えであることが多いようだ。

本書はこの「成功にとりつかれた日本の中高年男性」が日本全国津々浦々で巻き起こす珍騒動を、その顛末も含めて、冷静に時間をかけて観察して分析した本だ。一読すれば、「やっぱりな」と感じる人も多いだろう。日々街を歩いて感じる違和感の理由をこれでもかというくらいはっきりと指摘してくれるので、とっても気持ちいい反面、身近にいる「成功にとりつかれた日本の中高年男性」の顔が浮かんできてイライラもするだろう。

以前秋田市に旅行に行ったとき、札幌と東京でしか暮らしたことのない僕は、なんて不便な街なんだ、と思ったものだった。どうして路面電車か地下鉄を作らないんだろうと不思議に感じた。車がなければ生活できない街は必然的に街中が駐車場だらけになってしまう。そんなに小さな街でもないのにもったいないな、というのがその旅行の感想だった(何しに行ったんだ)。

一方で、本書によれば岐阜市はコンパクトシティ構想、つまり歩いて暮らせるくらいコンパクトな街を目指すべく路面電車を廃止したそうだ。岐阜市は40万人都市だ。本書もその政策を厳しく批判しているけど、僕も同感だ。公共交通機関は都市にとって生命線だと思う。岐阜市には行ったことはないけど、いくらコンパクトシティを標榜したって市民の多くは中心部には住めないし、住みたくもないだろう。そうなればバスを利用するか車を所有するかだけど、結局時間かお金かどちらかの形で生活の費用がかさむだけだ。ある程度発展した都市に新しく交通機関を導入するのが大変だ、という話ならわかるけど、今あるものを廃止してしまうというのは、正直理解できない。

僕の育った札幌の市営地下鉄は万年赤字体質(と思ってたら今や黒字出しまくりで補助金も減らしてるとか(参照)。しらんかったなあ。2011年8月9日追記)だけど、だからって廃止せよなんて声は上がらない。雪国だけど車を持つ必要がないってのは、特に若い人やお年寄りにとっては本当に大きな利点だと思う。本書では、青森の駅ビルなどを例に自治体が赤字でも運営すべき価値のある事業を紹介している。

本書には「成功にとりつかれた日本の中高年男性」最大の弱点が身も蓋もなく暴露されている。それは「上から目線」そして「勉強しない、何も考えない」である。もうちょっと具体的には、計画段階で出来の悪いアンケート結果にしがみつく。失敗するとうすうす気づいているにも関わらず前例主義に染まって同じ失敗を繰り返す。他の街と同じ政策だから、あるいは前例どおりだからといって責任を取らない。おや? そういえば日本銀ナントカという組織がやたら自作のアンケートばかり重視して十年以上も結果がでてないのに平然と自分たちの功績を誇っていたりしたような…。ともかく、本書は地域再生計画がモゾモゾと出来上がっていく滑稽なプロセスとその成れの果てをあけっぴろげに解説してしまっている。「やっぱりなあ」とも思うけど、「想像したよりもヒドイ」とも思う。オジサンたちはあんなに偉そうだったから、もっと根拠があるのかと思ってた。

本書は名指しこそしていないけど、都市名と計画なんて隠しようも無いわけで、問題の能なしが誰なのか地元の人なら一発で分かる仕組みになっている。もちろん、なんでもかんでもオジサンのせいにすればいいってんじゃなくて、市民の生活の改善が目的なのだから、他ならぬ市民が粘り強く関わっていかないと、再生計画は上手くいかないどころか、孫の代まで続く問題をこしらえるハメになるよ、ということなのだ。で、粘り強く関わっていくうちにナントカさんはこの問題に始めから取り組んでいたんだから云々みたいな話になって結局そのオジサンの一言が不相応な重みを持っちゃったりするんでしょうね。とりあえず「上から目線」そして「勉強しない、何も考えない」という罠にはまらないように頑張りたいと思います。

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