国会学入門 第二版 大山礼子 |
で、本書はタイトル通りの本で、国会の仕組みを一般向けに解説した本だ。といって、中学の教科書のような箇条書きを散文にしただけって感じじゃなくて、慣習の由来、規則の理念、実態、国際比較と至れり尽くせりだ。文言が堅いけど読んでいてとても面白かった。とくに、国際比較が充実している。簡単に言ってしまえば、単純な国際比較はできないということなのだが、それほど各国の議会の運営方法には特徴がある。本書ではアメリカをはじめ、主要国の議会の特徴どころか仕組みまで解説してくれているので、かなりお得な一冊といえる。この第二版は2003年に出ている。そろそろ第三版を期待したい。
日本の国会って地味だから、とりあえずアメリカっぽく改革しようという気持ちになっちゃう日本人は大変多いようだ。僕も自覚がないだけでそういう日本人なのかもしれない。しかし、誰もが知っているとおり、アメリカは大統領制で日本は議院内閣制だ。……。で、どうちがう? 字がちがう。そうじゃなくて、アメリカは三権がはっきりと分かれて牽制しあうという制度なので、議会から選ばれた内閣というものがまず存在しない。アメリカの大統領は行政のトップであるから、立法には手が出せない。もちろん大統領の意向をうけた議員が法案を提出するわけだけど、大統領と同じ考えの議員が自主的にそうするんであって、その手の法案はかなり頻繁に否決されたり、むちゃくちゃに修正されたりしているそうだ。基本的に議院内閣制の国に比べて党議拘束がゆるゆるなのがアメリカだ。大統領と同じ政党の議員でも平気で反対票を投じる。本書では、議員一人一人がそれぞれ一つの政党のような振る舞いをする、と書かれている。行政の(つまり大統領の)監視が議会の役目という認識がかなり強いようだ。
さて、こんなにもちがうアメリカの制度を、日本にぶち込んでもいいんだろうか。アメリカ流の二大政党制というのは、日本ではまったく意味をなさないのではないだろうか。大統領の意をくんだ法案に、おんなじ政党の議員が平気で反対するような制度を、与党議員の反発は重大な裏切りととられる日本の制度に組み込むことに意味なんてないと思う。
じゃあ日本の制度は野蛮で時代遅れなのかというとそうでもない。たとえばイギリスの場合、内閣が議会の一部になって与党と合体しているような状況だ。日本の場合内閣は議会の外に作られると考えられている。つまり形式上、そしてある程度実際上、内閣と与党は別の組織である。しかしイギリスの内閣は与党とまったく同じであり、閣僚以外の与党議員には仕事がないくらい与党そのものだ。議院内閣制の国ではどこも、議会と行政の距離がかなり近いが、イギリスは一体化していると言っていいだろう。そしてそのイギリスも二大政党制なわけだ。日本では内閣のブレーキ役は与党だけど、イギリスではそれはありえない。なので、野党がブレーキ役になるわけだ。
となると、日本の野党は何やってんの? と思うわけだが、政権交代が起こった今、日本の国会もイギリス型の議会になろうとしているのかもしれない。
さて、日本では、国会議員たちは当選するとすぐに、所属する委員会を決める。学校のホームルームみたいだけどそうではなくて、国会において法案を審議する実質的な場所というのは、ニュースで見るような本会議ではなくて各委員会である。だから議員は自分の利害に関わる委員会の中で立法に携わるわけだ。これを委員会中心主義というそうだ。帝国議会時代は本会議中心主義だったそうだが、GHQがアメリカの議会に習って委員会中心主義を導入させたらしい。
現在の日本がこうしてあるのだから、このGHQの考えもそんなに悪くはなかったといえると思う。が、弊害もでてきた。とくに、法案が内閣なり議員なりから提出されると、まず議長がどの委員会で審議すべきかを決める。そして委員会で審議され、最終的に本会議で決をとるわけだ。弊害というのは、本会議に至るまで国民が審議されている法案について知るのが難しいということだ。さらに、野党が法案の趣旨説明を要求することができるのだが、その間、委員会での審議はしないという慣習がある。最近ではこの慣習を利用した遅延戦術がよく用いられ、審議が遅れるという事態が相次いでいる。実はGHQの意見が採用される前、日本人の担当者たちは、まず本会議で提出された法案の趣旨説明を行い、その後委員会に付託して審議して、そしてまた本会議に戻して決をとる、というスタイルでいこうとしていたそうだ。これは帝国議会時代の仕組みを一部受け継いだものでもあり、また、現在のドイツ連邦議会の仕組みにも似たものだったようだ。今までの仕組みが全然だめだ、という主張は極端すぎてナンセンスだけども、日本独自の議会のあり方を模索しましょうよ。
さて、現在の民主党政権下で、なにやら議員立法がどうのこうのという話がある。では議員立法ってなんだろうか。国会は立法府で、そこにいるのは議員さんなんだから、わざわざ議員立法なんて言い方しなくてもいいんだけど、実際には内閣が提出する法案が半数以上を占めているというのはご存知でしょう。で、これは無知で野蛮な日本独特の現象なんだろうか、といえばそうでもない。議院内閣制の国はたいていそうだ。アメリカの議会だけは例外で、そもそも内閣がないのだから議員立法しかない。それでも大統領の意向は党を通じて影響力を持っている。
日本の国会では一時期、議員立法を増やそうとしていたことがあるそうだ。が、結果から言えば、内閣が与党議員に法案の提出を依頼することで名目上の議員立法が増えただけだったそうだ。実際のところ、行政側にしかない情報というのはたくさんあるわけで、なんでもかんでも議員立法である必要はない。議員立法に向いているのは、議員秘書制度の改正案等の超党派で取り組むべき問題だろう。今、国会法の改正が話題になっているけど、これも内閣よりは議員が提出すべきものだと思う。とはいえ、超党派の議員立法にも問題はあって、たとえば産業界などの要請を受けた議員たちが法案を提出して可決したとすれば、そこには国民が不在である、といわれてもしかたながい。議員立法だから民意に添っている、とはいえないわけだ。
と、まあとりとめもなく書いてしまったのだけど、本書を読んで僕が感じた国会の問題点は、会派と政党が実質同じになってしまっていること、会期があることで時間切れを狙う戦術を使うインセンティブがあること、そして行政の監視機能が脆弱であること、だと感じた。ここでは特に、会派と行政の監視機能について書いてみたい。
現代の法律はとても複雑だ。僕は実際の法律を読んだことはないけど(断片ならありますよ。本とかに出てくるから)、まあ複雑って聞いてます。なので、国会で法律を作ったとしても、その法律が議員、lawmakerの考え通りに運用される保証はどこにもない。法の執行機関(お役所)が最もらしい理由をでっち上げてテキトーなことをしているかもしれない。でもやっぱ複雑な内容の法がいちいち実現しているかどうかリアルタイムで監視はできないわけで、事後的に評価するよりないわけだ。だーけーどー、高橋洋一さんが言っているように、お役所ってのはとにかく評価をいやがるところでもある。
歴史的には行政を監視するために議会は立法権を手に入れたそうだ。立法っていうと派手なので議会と言えば立法ってイメージだけど、今日の日銀の暴走(別に最近だけじゃないみたいだけど)をみていると、日本の国会にはまず行政監視の能力を向上させて欲しいと思う。
次に会派の問題。会派の明確な定義はないらしいんだけど、同じ政治的意向を持つ議員のグループであり、政党が議会の外の組織であるのにたいして、会派は議会内部で作られる。なので、アメリカだと会派が政党の指示を無視する、なんてことがあるんだそうだ。日本の場合、本来議会の外の存在である政党がそのまま会派と同一視されているので、法案のほとんどすべてが与党の内部で出来上がってしまい、国民どころか野党議員にも詳しいことは知らされないまま委員会での審議になってしまう。さらに内閣(や議員)は、本来なら各会派を説得して法案を通せばいいが、会派が与党と同じであるから、内閣はどうしたって与党の意向を無視できない。結局与党を説得する必要がある。このため与党の有力議員に権力が集中する。こうして国民には評判の悪い、議会を無視した与党内での密室政治が生まれるわけだ。
で、政権交代が成ったわけですが、こういった問題は解決されたんでしょうか? まだよくわからない。でも、閣僚入りしたわけでもない小沢さんがとても影響力を発揮しているみたいだし、やっぱ与党の内側でいろいろ話が進んでいるような雰囲気。もちろん与党なんだから影響力があって当然なんだけど、何が起こっているのか分からない、というのが問題なのよね。議会の内部で、堂々と、会派として議論してもらいたいもんです。国会法の改正がどういうものかよくわからないけど、実質的な議論の場を議会の外である与党から内である会派に引っ張り込むようなものであれば、歓迎したいですね。
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