Language Logというブログに、先般の反日デモで掲げられたスローガンの英訳とその若干の解説があったので訳してみました。原文にはピンインも記されていましたが、僕はピンインも中国語もまったく読めないので翻訳文では割愛してます。
原文は『More anti-Japanese slogans, but with a twist』です。
(翻訳はじめ)
さらに反日スローガン、ただしヒネリ有り
September 21, 2012by Victor Mair
二日前に、「『日本人は全員死んじまえ』」と題したエントリーで私は、尖閣諸島を巡って中国で起きている、暴力的な反日スローガンを掲げたデモについて書いた。それが今は、政府が支援する「日本人をぶっ殺せ」スローガンに触発された形で、同型のスローガンが他ならぬ政府に向けられている。中国政府は自身の弱点を隠すべく種々の宣撫工作を行なってきたし、その弱点には、第十八回の全人代を控えてもなお中国共産党が派閥ごとに鋭く対立していること、そして人民の不満が高まっていることが含まれている。だから、この展開は多くの中国ウォッチャーが予想していたものだ。
ではここで、実際にあらわれた官製でない、反政府的なスローガンの例を見てみよう。
先废劳教再保钓,以防保完被劳教
(政府は)まず労働者の再教育(政策)を廃止せよ(つまり労働教養(強制収容所に勾留されることが多い)のこと)。そしてその後で、魚釣島を防衛せよ。(魚釣島の)防衛後に人民が「再教育」されないようにするために。
訳注:労働教養とは、裁判抜きで人民を勾留できる制度。勾留されると労働改造所に送られて強制労働をさせられると言われている。アメリカ議会でも深刻な人権問題として取り上げられている。(参照)
给我三千城管兵,一定收复钓鱼岛
给我五百贪腐官,保证吃垮小日本
城管兵が3000人もいれば、魚釣島は間違いなく取り戻せる。
汚職役人が500人もいれば、その食い意地で「小日本」を平らげる。
注:
城管兵とは、人々に非常に恐れられている準警察組織で、都市部において一般の市民(行商人や住んでいる家を破壊されてしまった人々(後述)など)との間にかなり暴力的な衝突を引き起こしている。
「吃垮」という表現の翻訳は難しい(直訳すれば、「倒れるまで食べる」になる)。これはすべての役人の満たされることのない食欲を指していて、汚職役人かどうかを問題にしている表現ではない(とはいえ、人々は「无官不贪」(腐敗していない役人などいない、つまり役人はみんな腐ってる)とも言っているが)。公式、非公式の統計はどれも、中国共産党の役人が毎年数十億元規模の税金を、宴会や会食に使っていることを示している。だから必然的に、街や企業、国その他諸々を「吃垮」する役人に対しては手厳しい物言いが溢れることになる。つまりこれは、500人の中国汚職役人を交渉のために日本に送り込めば、連中の豚のような食欲でもって小日本を「倒れるまで食べる」ことだろうよ、という意味なのだ。
さらにこの写真には(台湾の)中華民国の旗がかなり目立つ形で写っている。
これはここ最近私が目にした中国の写真の中でもっとも悲しい一枚だ。
没医保,没社保,心中要有钓鱼岛
就算政府不养老,也要收复钓鱼岛
没物权,没人权,钓鱼岛上争主权
买不起房,修不起坟,寸土不让日本人
医療保険もなく、社会保障もない。それでもあんたの心にゃ魚釣島があるわけだ。
政府が年寄りの面倒なんか見やしなくても、ワタシらは魚釣島を取り戻さにゃならんわけだ。
財産を私有する権利もなく、人権もない。でも(ワタシらの国は)魚釣島の支配権をもぎ取らにゃならんと必死になってる。
(ワタシらは)家も買えず、墓も建てられない。それでもワタシらは一片の土地を巡って日本人と争うわけだ。
では目についた他の例を見ていこう。
伝統の、政府お墨付きスローガン
十亿青年十亿兵,国耻岂待儿孙平
10億の若者と、10億の兵士。子供たちと孫たちのため、この国家的恥辱を雪ぐのに何を待つことがあるというのか?
風刺系スローガン
哪怕吃尽毒奶粉,也要杀光日本人.
哪怕喝遍地沟油,也要挥刀斩倭寇.
哪怕顿顿瘦肉精,也要出兵灭东瀛.
哪怕天天被代表,也要收复钓鱼岛.
哪怕养老没人管,也要占领富士山.
哪怕老家被强拆,也要活捉福原爱.
たとえ汚れた粉ミルクしか飲むものがなくとも、日本人は全員必ずぶっ殺す。
たとえ全土で地溝油を使うはめになったとしても、刃を研いで倭寇を必ずたたっ斬る。
たとえクレンブテロール入りの肉しか食べれなくなっても、東の海に軍を送り込んで(そこにいる奴らを)必ず粉砕する。
たとえ我々人民がきっちり「代弁されている」のだとしても、魚釣島を必ず取り戻す。
たとえ我々が年老いて面倒を見てくれる人が誰もいなくても、富士山を必ず占領する。
たとえ住み慣れた我が家が強制的に破壊されても、福原愛を必ず生け捕りにする。
訳注:
地溝油は下水や排水から精製した食用油。人体に有害だが、中国政府の管理の外で流通しているため利ざやが大きい。(参照)
クレンブテロールは食肉の赤みを増す効果のある薬物。人体に有害で、中国ではクレンブテロールによる中毒事件が度々起きている。(参照)
注:
(訳注:倭寇については略します)
「代弁されている」とは、ちゃんとした民主制である代わりに、(訳注:人民の意志は中国共産党によって)「代弁されている(represented)」という意味。
(訳注:福原愛さんについても略します)
「破壊」とは、悪名高い「拆」で、中国国内でとんでもない騒動と抗議の源泉となっている。(訳注:拙ブログのこのエントリーを参照)
养贪官,做房奴,决不放弃钓鱼岛.
クソ役人を肥やすだけの住宅ローン奴隷だとしても、オレらは絶対に魚釣島をあきらめねえ。
無数の風刺系スローガンが広がっていることと、そして政府を後ろ盾にした愛国的なスローガンがあきもせず繰り返しあらわれることから判断するに、少なくとも相当な割合の市民は、人々の注意を国内の危機から日本やアメリカ、フィリピンやベトナムなど別のターゲットにシフトさせようという中国共産党のキャンペーンに引っかかってなどいない。
このごろの中国は、体制側の日本に対する激しい非難を皮肉った、イミテーションという反動で溢れかえっているのだ。ここを見るとさらにいくつもあるのがわかる。
Language Logの読者の方で、写真にある冷笑的な文句が読める方は、是非コメント欄にその訳を書いてください。
(翻訳おわり)
いやー、おっかない国ですね。強制労働とか地溝油とか。中国の人の多くは反日に熱心ではない、なんて話は聞こえてきますが、本当の所はいまいちわからない。尖閣については日本が実効支配してるわけですから、こちらから騒ぎ立てる必要はないのでしょうし、その上で日本側が冷静になって無用な刺激をせず、あちらさんの腹芸に付き合って見せるのがいいんでしょうけど、なにせ実情がわからないからどうにも不安が拭えないですよね。いっぱしの外交上手な国になりたければそれくらいの不安には耐えろ、ということなんでしょうか。
追記:
2012年10月7日 文言をちょっと修正。
追記その2:
2012年10月16日 中国国内で流通する危険な食用油の数々について、日本語で解説している動画が有りました。こちらです。元警視庁刑事、北京語通訳捜査官の坂東忠信さんと、『検証 財務省の近現代史』の著者、倉山満さんの対談です。
0 件のコメント:
コメントを投稿
コメントをどうぞ。古い記事でもお気軽に。