2009年4月28日火曜日

政府による暗黙の保護、あるいはちょっとだけ経済学に触れて思ったこと


日本の個人資産は1400兆円ともいわれる。とんでもない額だ。このお金は金融市場を通してさまざまなプロジェクトに使われるべきものだ。そうでなければただのケチだ。

しかし現状はケチのほうであるようだ。つまり資金が必要な人のところに届いていない。

僕が思うに、これは政府の保護の問題であると思う。日本のお年寄りがお金を使わないのは、社会保障がちゃんとしていないから、と説明されることが多い。別に間違っているとも思わないが、億単位の金を庭に埋めるとか、高齢者たちは平均して二十年分の生活費を溜め込んでいるとか聞くと、ちょっと社会保障だけでは説明できないと思う。

大金を溜め込む、ということは、溜め込んだ大金の価値が将来的にも変わらない、と想定している、ということではないか。来年のことをいえば鬼が笑うわけだが、十年後の物価水準なんて予想するだけばからしいというものだ。にもかかわらず溜め込んでいるということは、インフレは絶対に起きない、と考えているということだろう。

物事にはつねにトレードオフがあるわけで、お金を貯める、という行為ににも当然リスクがある。それは「金額は増えても、お金の価値は減ることがある」ということだ。

池田勇人が繰り返し述べていたように、インフレが20%とか30%とかいう状況では、人は絶対にお金を溜め込んだりしない。今年の100万円が来年になると80万円の価値になってしまうのだから、今のうちに100万円ぶんの価値あるモノやサービスと交換したほうがいい。だから経済がインフレ気味だと景気がいいようだ、という経験則があるわけだ。

いまの日本のお金持ちも、当然インフレのリスクを負っている。はずなんだけど、ここで政府の保護があると思う。本来なら、インフレをヘッジするために、ある程度のリスクをとっていかないといけない。例えば100万円を一年間投資するとして、年率3%のインフレに耐えればよし、とするなら、一年後に103万円以上になってなければ損をしてしまうわけだ*1。ただお金を貯めるだけでも3%の利益をださなきゃならない。そのためには投資先を慎重に選んだり、あるいは有望な投資先そのものを発掘しなきゃならない。そこで金融機関はお金持ちからの圧力をうけていろいろ動き回るわけだ。そうやって人物が発見されて、投資され、利益を上げたり上げなかったりして、お金が世の中を回っていいく。そこまでやっても、結果的にインフレ率が5%だったら、二万円の損になってしまうし、さらに、貯めるだけでなく利殖もしようとなったら、更に更にがんばらないといけない。

が、そうはなっていないようだ。まるでお金持ちの「インフレをヘッジしなきゃならない!」という気持ちがまったく存在していないかのようだ。で、それは政府(日銀も)が暗黙の保護をあたえているからなんだろう。お金持ちは政府がインフレを許容しないことを知っている。だから投資先を探すこともない。本来なら、お金持ちはある程度のリスクをとっていかないと、自分の財産を守ることができない。そして、だから、経済には始めから貧困をなくす力が備わっている、ということもできるだろう*2。お金持ちが財産を守ろうとすれば、それは誰かのチャンスになるというわけだ。が、この経済に備わった力を、今の日本政府は押さえ込んでしまっているんじゃないだろうか。

当然そこにもトレードオフがある。お金持ちがリスクを負わずに財産を守ることができるということは、誰かが代わりにその代価を支払っている、ということだ。ただ、誰がどういう形で支払っているかは、それほど自明なことじゃない。まあ就職氷河期とか労働環境の悪化は一つの形でしょうが、もっと微妙でとらえ難い形もあるだろうし、誰か、というのも、若者であることが多いだろうけど、そうでない事も少なくないんだろう。このとらえ難さが、与謝野大臣の次の発言を、なんというか許してしまうんだと思う。

国際通貨基金(IMF)や経済協力開発機構(OECD)の見通しだと日本は今年、6〜7%程度のマイナス成長になるという。マイナス3%という欧米経済の見通しに比べるとかなりマイナス幅が大きい。それを今回の経済危機対策で欧米並みの落ち込みまでかさ上げできると思っている。

時事超流
与謝野馨 財務・金融・経済財政相に聞く
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20090424/193016/


財務・金融・経済財政大臣がこういうことを言っていればインフレになる心配はまったくないだろう。ここでいう成長とは日本経済が造り出すモノ(やサービス)の量が、前年に比べて増えた、ということだ。それがマイナスであるというのは、造り出す量が減っているということで、その分仕事が減っているという事でもある。先日のエントリでも書いたが、少ない需要に多すぎる供給をあわせるのは、人に死ねといっているようなものだ。なぜそんなことが許容できるのか僕には分からない。

で、この事実上のデフレターゲットはすこぶる上手くいっているように見える。ならば、インフレターゲットも上手くいくんじゃない? 今は溜め込んだお金を使う時だ。デフレなんだから。

*1:複利って何それ? おいしいの?

*2:この力がそのうちバブルを生み出すんだろう。バブルの発生を防ぐことはできるのか、そもそも防ぐべきなのか、というのは議論の別れるところ。

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