2008年6月10日火曜日
Discover Your Inner Economistを読んだ
この本を貫くテーマとして、「世界を良くする」がある。もちろん、「みんながガマンすればいいと思います」じゃなくて、みんなそれぞれが最大効用を目指せる環境をつくる、といういかにも経済学者な目標で気持ちがいい。そうそう、著者は経済学者です。
だから、美術館で自分の関心を持続させる方法、とか、面白くない本をそれなりに読む方法とかは、己の最大効用をめざす、という意味でただしく世の中を良くしていくと思う。社会の中で自分はどうすればいいのか、という問題があって、自分がしたいことはなにか? それはホントにしたいことなのか? 空気読んだだけじゃないのか? と問い、自分のしたいことをしろ! というのが答えなんだけど、この個人からの目線が大事であるはずなのに、なんか行ったり来たりしてしまう。中途半端なマス目線があったり(音楽の話)して、イライラする。
で、個人の最大効用(そういう言葉はでてこないけどさ)を目指すときにも問題があって、人はコントロール感をすごく重視するので、たとえ合理的で正しい選択肢でもコントロール感がなければ選ばないよ、という。
例えば、新型の質の悪いインフルエンザが猛威をふるっています。感染者の10%が死にます。とても良くきくワクチンが作られましたが、ワクチンを接種した人の5%が死にます。さて、あなたはワクチンを接種しますか?
こういう質問をされたときに、多くの人が「接種しない」、を選ぶのだそうだ。致死率がはっきりと決まってしまう(コントロール感を失う)ことを恐れているのだろう、とコーウェンは推測してる。この例が面白いのは、じゃああなたの子供には接種させますか?<あなたが医者だったとしてあなたの患者には接種させますか?<あなたが大きな病院の経営者だったとして病院全体の患者に接種させますか? という順番で「接種させる」、が増えていくのだそうだ。人は他人の問題は冷静に見通せる、ということなんだって。
しかし、そういう僕たちがよく生きるために「世界一他人の(正しい)アドバイスを受け入れる人間」という自己イメージを持つべき、というのはヒドいんじゃないだろうか。コントロール感が全然ないじゃん。これじゃあ「強くなれ」的な精神論じゃないか。
人にうまくコントロール感を持たせてやれば、受け入れ難いが正しいことも出来るかもしれない、というのはグッドニュースなわけですよ。なのに……
と、思ったら。
なんとなくロバート・I・サットン『あなたの職場のイヤな奴』を読み返していたら、イヤな奴の多い職場で生き残るには「コントロール感」が重要、みたいなことが書いてあった。この本はイヤな奴=クソッタレのいる環境に長期間浸ることを強力に戒めている。あなた自身も早晩クソッタレになってしまうから早く出なさい、と。しかし事情があって出られない人のために、素人にはおすすめできない耐える方法を説いている。
その一つがコントロール感だった。クソッタレに対して小さな勝利を積み重ねることで、ささやかながら自分の人生をコントロールしているという感覚を持てば、苦しい環境でも生き延びられるという。ここで出てくる例が北ベトナムで捕虜になった中将だったりして、ああ、堪え難い上に正しくないことも、コントロール感を用いれば受け入れてしまうのね。
ということで、この本(Discover Your Inner Economist)の端切れが悪いのも悪用を恐れてのことなのかも。なので善良な市民におすすめ。
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