2008年3月19日水曜日

結局統計ってつかえるの?

ものすごく使えるよ派
エアーズ『その数学が戦略を決める』
飯田泰之『考える技術としての統計学』

基本使えないよ派
Taleb "The Black Swan"


cover
その数学が
戦略を決める
イアン・エアーズ
最近読んだ本を参考に、結局統計って使えるの? とくに我ら一般庶民に、という問題を考えてみる。

今日本では日銀総裁が決まらなくてすごくもめているけど、日銀の政策は統計が無いと成り立たない最たるものでしょう。だって一億人以上の経済活動をすべて把握は出来ないから、具体的な、誰がどこで何を買ったの売ったのということは切り捨てて、100人、1,000人でどんな傾向があるのかを見ていく事になる。いわばどんぶり勘定だ。ホントは箸で一粒ひとつぶ取り出して調べることが出来たら一番いいけど、ま、無理。統計をとるのに時間がかかって、五年前のデータで来年の事を決めるわけにもいかないもの。

なので統計は正確ではない。そんなの当たり前。正確に把握できないから統計が必要なんだ。何年か前に、うっすらとした記憶なんだけど、朝日新聞社内で起きた事件があった。靖国神社に首相が参拝しても良い? ダメ? っていう調査をして、51%/49%で参拝賛成が多かった(逆かも)。そしたら上役と部下が喧嘩になって、たぶん部下が「そういう時代になったんですよ」とか言ったんじゃないの? 上役が部下を殴ったっていう事件。その後どうなったのか全く知らないし興味もないけど、間の抜けた話です。誤差でしょ、どう見ても。賛成も反対もおんなじくらいです、とはいえるけど、どっちが多い、とはいえない。統計は正確じゃないから、何かを読み取るには慎重さが必要なわけだ。そしてだから、統計は分かりにくい。

ただ単に正確じゃない、っていうだけじゃない。どういうふうに不正確なのか、これも大問題だ。さっきの靖国参拝のデータは、たぶん小泉純一郎氏が首相だった時の話だ。いま聞いたら違う回答をする人も多いんじゃないか。これはつまり、データが古いから正確でない、ということになる。

cover
考える技術としての
統計学
飯田泰之
日銀の仕事は物価の安定だけれども、そこで参考にするのが消費者物価指数(CPI)だ。CPIにはバイアス(偏り)があることが知られている。スーパーで売っている商品の価格を調べるにしても、すべてのスーパーを調べるのは無理だから、いくつかのお店を抜き出して調べるわけだ。でも人々は絶対に同じ店で同じものを買い続けるわけではなくて、そのときどきで安いお店に行ったりもする。だから同じお店を調べ続けると、実際に人々が使った金額よりも多めに、ココ大事、多めに価格を見積もってしまう。他にも、三年前に外付けハードディスク120Gを2万円で買ったとしよう。で、今年、320Gを2万円で買いました。これで僕は同じものを同じ値段で買ったと言えるだろうか。もちろん言えない。でも、CPI調査の品目はそんなに細かく分かれていないから、性能が上がって実質の値段が下がっているケースはCPIに反映されない。だからこれも実際よりも値段が高め、ハイまた来た、高めに計算されてしまう。

cover
The Black Swan
N.N.Taleb
日銀はなぜか、日本ではこういった上方バイアスはあんまりないよ、と言っている。とくに根拠があるわけではないようだ。1.8%ポイントぐらい高めに出てるよ、という人もいる。1.8%ポイントはすごいよ、やばいよ。だって日銀は、日本の物価はほとんど変化していない(CPIがゼロ近傍)からデフレじゃない的なことを言っているけど、もし1.8ポイント多めに評価しているとしたら、本当の日本の物価は1.2~5%で下がっていることになって、しかもここ十年以上そんな感じで、立派なデフレなわけだ。

こういうふうに調査の過程で結果が歪んでしまうことがある。というか必ず歪んでいる。日銀のようなエリート集団でさえ、統計をうまく使えていないんじゃないかと疑われる昨今、果たして縁なき衆生である我々が統計を使うメリットなんてあるんでしょうか。続く。

2008年3月12日水曜日

When you down and troubled.

なんとなく落ち込んでいて、nothing is going rightってな気分。友達? うーん。

こういうときはアランだ。でアラン『幸福論』。

ぱらぱらとめくって読んでみる。「25 予言」

占い師の話だ。占い師の言う事には耳を傾けない方がいい、ということ。

この世ではどんな出来事が起こるかわからない。だから、どんな強靭な判断力をも揺るがすような偶然の一致も起こる。あなたは不気味だが起こりそうもない予言を笑っている。でも、その予言が一部分でも成就したら、もう笑わないだろう。そうなったら、どんなに勇気のある人でも結果を見てからという気持ちになるだろう。われわれの不安というのは、だれでも知っているとおり、 破局そのものと同じようにわれわれを苦しめるものである。二人の予言者がお互い知らずに、同じことを予言することだってある。こういう一致にもかかわらず、あなたの知性の許す以上に、あなたを不安にしないなら、ぼくはあなたに脱帽する。

今、タレブの"The Black Swan"を(まだ)読んでいることもあって、実に腑に落ちる話だった(偶然でしょうけど)。アランはこのあと、重要な出来事は、どんなに賢くなったって予測できないんだから、人生のあれやこれやに未来を読み込まないで、目前のことだけ見ていればいい、というようなことを言う。

タレブは予測すんな、と言う。予測すると予測できなかったことが起こるので、当然予測してないからダメージでかいよ、と。それは予測しなくても同じなんじゃ? と思うけど、人間一度予測を立てればそれに沿って動くのは人情、予測を立てなかったときより無駄に資本を使っちゃう。だって「破局そのものと同じようにわれわれを苦しめる」んだもの。自分一人ならいいけど、組織となると無駄とか言ってられない。人的被害は埋め合わせできない。

「長期的には我々は皆、死んでいる」とは北斗の拳の名台詞じゃなくてケインズのお言葉でした。未来のことを考えれば不安になる(そうでなければ脱帽する)し、100年後には僕を含めて皆さんのほとんどが死んでいる。先の事ばっかり言ってないで今、景気対策を! リフレ政策を!

あれ? そんな話だったっけ?