男はプライドの 生きものだから テレンス・リアル |
本書はそのタイトル通り、男性が陥りがちな心理をテーマにしている。つまり男性は、「男らしく」振る舞うよう教育を受けてきたし、周囲からもプレッシャーをかけられるので、自分自身の感情を押さえ込んでしまう。その苦しさから、アルコールやセックス、そして仕事などの中毒行為に逃避し、自分や家族の生活をぶち壊してしまう。もし男性が自分自身の「女々しい」優しさや繊細さを受け止める事ができれば何も問題はないし、認めなくても、中毒行為に逃げなければ、うつ病の症状がでて医者にかかるようになるだろうし、そうして自分自身と向き合っていくだろう。が、多くの男性は自分のうつ病を自分自身から隠すために中毒行為に走る。そうして何年も何十年も傷ついた心を放置し、ある日、(年を取ったりして状況が変わって)中毒行為ができなくなると、無視されつづけてきたうつ病が一気に襲いかかり、ただでさえ壊れている生活にとどめの一撃がくわえられる事になる。この本では男性のある種の行いをそのように分析している。
以前にこのブログで書評したW・ポラック『男の子が心をひらく親、拒絶する親』と同じテーマの本と言っていい。本文中にもポラックへの言及がある。そして訳者も同じなので、同じ問題意識でなされた翻訳なのだろう。ただし、本書のほうが先に訳されている。
この本で描かれる症例は、著者自身をも含んでいる。著者の父はとても横柄で暴力的な男であり、二人の息子たちは常に父の暴力へどう対処するのか考えながら行動しなければならなかった。著者は父に強い反発を抱え、弟は父を単純に避けるようになった。
著者リアルは20代をアルコールとドラッグに費やしてしまったという。それが、彼が自分のうつ病と戦うためにとった戦法だった。死の危険もあった。それでもやがてセラピストを志していくわけだが、その過程で父と対話することを試みる。始めのうち、父は怒りと否定以外の感情を表現することを拒むが、息子は父の怒りをというか父親をもはや恐れていない。恐れを抱えているのは父のほうであり、息子は父の恐れをやさしく肯定する。そうして時間をかけながら、父は息子に少年時代の苦しかった日々、親に、大人に拒絶された日々のことを語り出す。その苦しみを誰にも話せなかった苦しみを吐き出す。
著者と父の話は実に感動的だ。父は世をすねて他人を見下して生きていたわけで、そんな人が老境に至り、今までバカにしてきた息子に助けられながら、「人生に大切なのは愛だ」「俺のようにはなるな。家族を大事にしろ」と息子たちに言い残して死んでいくのだ。もちろん彼が家族の生活を無茶苦茶にしてきたことが帳消しになったりしない。終わりよければ、という話でもない。それでも、どんな状況でも前を向けるんだ、と素直に思いたい。
さて次回からはこの本に載っている「症例」の中から、いくつか紹介していきます。自分と、あるいは身の回りの誰かと似ているケースがきっとあると思います。
その2
0 件のコメント:
コメントを投稿
コメントをどうぞ。古い記事でもお気軽に。