もう僕のバカさ大爆発で恥ずかしいんだけども、CPIには1%くらいの上方バイアス、と丸暗記状態でした。で、ちょっとだけ調べたのでそれをまとめます。CPIの上方バイアスについてなのですが、様々なところで「1%くらい大きめの数字が出てしまう」という意見をよく聞きます。
最近また聞くようになったのは自民の山本幸三議員が国会で持ち出したからだと思いますが、これ多分日銀の白塚重典氏の推計(0.9%)から来ている数字ですよね?
しかしあの推計は「多くの大胆な仮定の上に試算した結果で」あり,「数値は,必ずしも精度の高いものではないとの点は十二分に念頭におく必要がある。」と本人が書いていたと記憶しています。
例え「大胆な仮定」が全て当たっていたとしても、推計が発表されたのは1998年で、CPIが1995年基準だった時の事です。
あれからもう2回も基準改定があり、ヘドニック法も一部の品目で採用され、中間年見直しまで始まってるわけで、当時とは全然状況が違ってますよね?
実際白塚氏本人が2005年に「上方バイアスは、縮小方向にあると考えられる。」ってペーパー書いてますし、そもそも「CPIの上方バイアスについては、その大きさを固定的なものと考えることは適当でな」いと書いてます。
いつまでも0.9%という数字が一人歩きしている事のほうが問題ではないかと思うのですが、いかがお考えでしょうか。
CPIの問題点
従来から指摘されていたCPIの問題点を、ここにある宇都宮浄人氏の文章をもとに挙げてみる。
1. 品質の変化
2. 新製品
これが全部ではないけれど、「日米いずれの計測結果でも、最も大きなバイアスが生じているとされた部分は、 品質調整及び新製品の登場にかかる部分である」、と本文中にもあるのでとりあえずこれらをみていこう。
改善策
品質の変化に対応するために導入されたのが、ヘドニック法というものなんだそうだけど、この総務省の統計調査部の人たちの文章(ヘドニック法について(PDF))を見ると、パソコンなど品質の変化が激しい製品にこのヘドニック法を適用しているそうな。で、宇都宮氏は、ヘドニック法を不用意に使うと今度は下方バイアスがでる可能性を指摘していて、こうした懸念に対して総務省は、国際的にみて日本のCPIはヘドニック法を適用している商品の数が多いわけではないので、問題があるとは言えない、とのこと。あと、宇都宮氏は消費者の選択肢が少ない(あるいは無い)場合に、機械的に品質の変化を織り込んでいくと、変化を過大評価することになるのでは、とも述べている。しかし現状では、ヘドニック法以外に品質の変化に対応する方法がないようだ。
そして、新製品が出てきた時の対応としては、総務省統計局のページを見ると、
Q. 新しい製品が次々と登場しますが、それらの価格変動が反映されていないということはないですか。
A. 調査銘柄については、各品目において代表的な銘柄の出回り状況を調べ、調査銘柄の出回りが少なくなっている場合には、出回りの多い銘柄に変更します。この変更は定期的(年2回)に行っていますが、例えば調査銘柄が製造中止になって後継の新製品が発売されるなど、出回りが急速に変化する場合は、定期的な変更時期以外でも調査銘柄の変更を行い、新製品の迅速な取り込みを図っています。このような調査銘柄の変更は、毎年数十件程度行っており、常時、品目を代表する銘柄の価格をフォローする仕組みになっています。
消費者物価指数に関するQ&A
どのくらいのバイアスがあるのか
で、どの程度のバイアスがあるんだろうか? 正直よくわからなかった。1998年に白塚重典氏がCPIの上方バイアスは0.9%と発表してから、現在までに改善策が打たれてきたわけだけど、その結果どうなったのかはよくわからない。無視できる程度なのかそうでないのか。
安売りに対応できているのか、とか、一品目一銘柄で実態をうまく観察できるのか、という論点もあり、誤差の問題は当然つきまとうわけだけど、改善策が打たれたのだから、以前よりは精度が上がったとみていいと思う。
もちろん、誤差が狭まっていてもデフレであることにかわりはない。でも「日銀は上方バイアスを無視している」という批判は的外れかもしれない。
Agitさん、ご指摘ありがとうございました。
白塚氏の研究(1999, 2005, 2006)を受けて書かれた
返信削除Broda and Weinstein "Defining Price Stability in Japan: A View from America"
http://www.nber.org/papers/w13255
では、日本のCPIには、日本の政策当局の主張にも関わらず1.8%と推定される大きな上方バイアスが残っており、財政(年金はCPIに連動するので)政策、金融政策に大きな悪影響を及ぼした可能性があると論じています。
そのバイアスにより日本が負担するコストは、今後十年間で73兆円にのぼると推計しており、日本の統計当局がよく予算が足りないので誤差の少ない方法が取れないというが、統計を改善するほど効率よい投資が他にあるだろうか、と。
maedaさんコメントありがとうございます。
返信削除ご紹介の論文のアブストラクトを読みました。やはり今回ちょっと調べてみて痛感したのは、バイアスが固定的ではないってことでした。なので、1.8ポイントの誤差があることもありそうだなと思います。もちろん日銀は誤差に対して意図的なんじゃないかというくらい鈍感だったと思いますし、誤差が少なかったとしてもデフレが続いているわけです。だからCPIで2〜4%のインタゲを支持するんだけれども、その時に、誤差が1%で固定的であるかのように言うのは難しいと思います。もちろん、統計にもっと金を使うべき、というのには大賛成ですね。とくに一品目一銘柄で集計するのは消費者の行動とはマッチしていない気がします。あと携帯電話の割引制度も反映されていないそうで、"substitution biases and quality upgrading" 以外にも誤差の要因は多そうです
前回のzajujiさんのコメントに何のコメントも返さず失礼致しました。
返信削除今日たまたま見て気がつきました。すいません。
2007年のワインシュタイン氏の論文は知りませんでした。
が、ざっと眺めてみた感じでは、ワインシュタイン氏が以前から主張されていたことと変わらない論調に見えました。
ワインシュタイン氏の主張に対する反論も当然ありまして、例えば美添泰人氏の「消費者物価指数の信頼性」
http://www.yoshizoe-stat.jp/ecstat/essay/stat200706.pdf
などがあります。
この記事は大変興味深い内容ですので一読に値すると思います(既に御存知でしたら申し訳ありませんが)。
あと携帯電話についてですが、日本のCPIでの移動電話通信料は、利用パターンを家計調査から3パターン推定し、各社の料金プランを適用して一番安くなるような金額から作成するとなっています。
詳しくは統計局のQ&Aなどを御覧ください(これも既に御存知でしたら申し訳ありません)。
個人的には日本のCPIは大変よく出来ていると思います。
もちろん標本調査なので誤差もあるでしょうが、全数調査は不可能ですし・・・
統計にもっと金を使うべき、というのは反論のし様もありません(笑)
Agitさん、お返事ありがとうございます。
返信削除統計の数字は僕のような素人には抽象的すぎて、どうしても思い込みに振り回されてしまうなあと痛感しています。
考えてみれば携帯電話の料金制度は実に複雑ですから、それを正確に把握して反映できると思うほうが無茶なんですよね。何か絶対的な物価を示す値があるかのように感じてしまうのが素人の(僕の)浅はかさ。
今回は本当に勉強になりました。改めてありがとうございます。ご紹介の論文等、読んでみたいと思います。
古い記事でもお気楽に、との事なので。
返信削除CPIは基準年から離れるごとに上方バイアスが大きくなりますよね(だから、連鎖基準方式のほうが誤差が少ない)。
日本のCPIの基準年は5年毎に改定され、そのたびにCPIが下方修正されます。2006年から2005年基準に切り替わっており、次は2011年から2010年基準になります。
2005年に白方氏から「日本のCPIの上方バイアスは改善されており、2000年基準への切替時の0.26%よりも今回の誤差は少ないはず」という研究が発表されましたが、その直後に基準年が2000年から2005年に切り替わると、CPIは総合で0.5%、欧米式コア(いわゆるコアコア)で0.7%も下方修正されたそうです。(片岡剛士 日本の「失われた20年」p.175)
日本のCPIの上方バイアスは依然として大きいことがはっきり分かります。
それなのに、日銀は基準改定の直前に「CPIがプラス0.1%から0.5%に上がったので物価はプラスになりました」とか言って量的緩和を解除したわけですね。
あ、すいません。白方氏じゃなくて白塚氏でした。
返信削除maedaさん、コメントありがとうございます。
返信削除やはり2006年の量的緩和解除は本当ッッッに失敗でしたよね。集計方法からくる誤差と、経年からくる誤差が重なってバイアスが大きくなるというご指摘はとても重要ですね。僕を含めて、集計方法の誤差にばかり注目してしまう人は多いと思いますし。
今回の基準改定前にも日銀はなにか言うんだろうなと思うと、今からちょっとイライラしちゃいます。