2008年8月9日土曜日

組織と目的

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指導者の条件
山本七平
山本七平『指導者の条件』を読んだ。鋭いなーと思うこともしばしばだったけど、それはちょっと、というところもまた多い。三十年近く経った後知恵から、それはないでしょう、と感じているのは確かで、それはアンフェアだけど、やっぱり「日本は特殊だ!」という結論ありきなんじゃないの、と思ってしまうなあ。

求められている指導者として、池田勇人が上がっていた。池田は所得倍増をやりたくて総理になった。次の佐藤栄作は世話人タイプの指導者で政治家の世話することが目的みたいなもんで、独自の政策課題なんてなかった。田中角栄に至っては総理になることが目的であって、日中国交正常化をしたいとかそんなのなかったよ、と山本はいう(大意ですよ)。

これには思い当たることがあって、池田は総理になる前、岸内閣の通産大臣をしている(改造前は無任所大臣)。入閣前、池田は岸の強引なやり方を批判し、「おれは絶対に入らない。政治というものは数であり、数は金の力だ、というような金権政治の岸内閣には絶対に入らない」(伊藤昌哉『池田勇人とその時代』)とまで言っていた。なのに、彼は入閣するのだ。岸は警職法のごたごたで国民の支持を失い、なんとしても大物を入閣させたかったとき、「君の政策を実現するためにも、ぜひ、通産大臣になってほしい」(前掲書)と池田を誘ったのだ。池田が改造前の参議院選挙の演説で所得倍増をうったえていたのを岸は知っていたのだった。

池田の入閣は、彼の周囲の人間たちも不満だったそうだ。夫人にまで本当に良かったのか、と問われたという。池田も含め、誰も、一年後に彼が総理になるとは思っていなかった。

池田には所得倍増という目的があったからこそ、前言を顧みずに通産大臣の任を引き受けたのだろう。こういうタイプの指導者といえば、もちろん小泉純一郎が思い浮かぶわけで、彼の郵政民営化も総理就任以前から掲げた持論だった。自民党をぶっ壊すってのもあったね。

安倍前総理はふたを開けてみれば、祖父の岸信介とは全然違う総理だったけど、その目的は国民から見るとちょっと曖昧だったかもしれない(憲法改正は目的ではあったんでしょうけど、今イチはっきりしなかった)。でも公務員改革とか重要な政策を実行してもいるし、辞任のいきさつを見れば、総理になることが目的だった人だとは思えない。年金問題のような短期的には何も出来ないようなことで引きずりおろされるべきではない人だったと思う。

さて福田総理はどうだろうか。世話人タイプ丸出し感はあるけど、この苦しい時期に総理になろうって人がそういうタイプだとは思えない(思いたくない)。ただやっぱり彼の目的は曖昧だ。今回の改造も、何を目指したものかよくわからない。でもこういう評価は後知恵の部分もかなりあると思うので、ま、保留ですかね。無目的で与謝野馨を起用はしないでしょ。リフレ派としては苦しい時期ですが。

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