2009年7月17日金曜日

書評? Josh Waitzkin "The Art of Learning" その3

承前:その2

もう書評じゃないよなあ。今回は太極拳の話に行く前に、ジョシュの転機になった出来事についてです。

インドでのチェスの大会の時、ジョシュは16歳なのだが、大事な試合中に突然、地震にみまわれる。まわりの人々は急いで建物から出て行ったが、ジョシュはそこに残り、どうすれば勝利できるのか考えていたという。

その時の様子を、彼は次のように語る。

cover
The Art of Learning
Josh Waitzkin
Everything started to shake and the lights went out. The rafters exploded with noise, people ran out of the building. I sat still. I knew what was happening, but I experienced it from within the ches position. There was a surreal synergy of me and no me, pure thought and the awareness of a thinker ---I wasn't me looking at the chess position, but I was aware of myself and the shaking world from within the serenity of pure engagement--- and then I solved the shess problem. Somehow the earthquake and the dying lights spurred me to revelation. I had a crystallization of thought, resurfaced, and vacated the trembling playing room. When I returned and play resumed, I immediately made my move and went on to win the game. [p.53]

拙訳:建物が揺れはじめ、明かりが全て消えた。屋根の木材がものすごい音をたてていて、人々は建物の外へ逃げ出した。僕はじっと座っているだけだった。何が起きているのかちゃんとわかっていた。でも僕は地震をチェスの駒の配置の中から感じていたのだった。それは僕と僕でないもの(純粋な思考と、思考するものの気づき)の非現実的なシナジーだった。僕はチェス盤を眺めている僕ではなく、純粋な没頭の持つ静けさの中から、自分自身と地震で揺れている世界を認識していた。理由はどうあれ、地震とそれに続いて明かりが消えたことが刺激となって、僕は啓示を受けたのだった。僕は水晶のように明晰な思考に入り込んでいたけれど、我に返り、まだ揺れている会場を後にした。そして試合が再開されると、僕は席に座り、すぐさま一手打ち、一気に勝利した。


なんだかスーパーサイヤ人誕生! みたいなシーンだけども、ジョシュは自分の意志でこのときの明晰な状態に入れるようになりたい、と考えた。そのために「気をそらすもの」に対処しなければならないのだが、ジョシュの経験した地震はそうとうに大きな「気をそらすもの」なわけだ。にも関わらず、ジョシュは心をクリエイティブな状態に保っていた。つまりジョシュの発見は、「気をそらすもの」への対処の仕方によって、人のパフォーマンスは劇的に変化する、ということだ。喫茶店でおばちゃんが騒いでて本に集中できない、バイクの音がうるさくて勉強が続かない、というようなことから、大きい地震がきているのにトップレベルのチェスの試合に勝ってしまう、というようなことまで変化の幅は大きい。

そうしてスーパーサイヤ人になるためのロードマップをジョシュは示しているのだが、それによると、まず何が起きても(作業なり何なりを)続けられるようになり、その後に、何が起きてもそれを自分の有利なものにしてしまえるようになり、最後に、完全に充足した状態で自分で何かを起こして、それを刺激にクリエイティブな状態になれる、という。

さあ、だんだんアヤシクなってきましたね。つづきます。

つづき:その4

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