2009年7月9日木曜日

書評・Josh Waitzkin "The Art of Learning" その2

承前:その1

cover
The Art of Learning
Josh Waitzkin
映画のヒットで、ジョシュは一夜にしてセレブの仲間入りを果たした。チェスの大会に出れば人だかりができて、女の子が電話番号を書いた紙をわたしてくる。フツーの高校生なら有頂天になって我を忘れてしまうところだが、幼い頃からチェスを愛してやまない彼だから、ミーハーな注目を集めてしまうことは、対処しなきゃいけない大きなノイズではあったが、自分を見失うということはなかったようだ。

本書によれば、トップレベルのチェスの世界とは何かとおっかないトコロのようで、試合中、対戦相手の気をそらすために、色々仕掛けるプレイヤーも多いんだそうだ。例えば、映画でも描かれていたけど、先手がなかなか試合を始めなかったりしていた。ジョシュがローティーンのころにソ連が崩壊して、ロシアから亡命してきたチェスプレイヤーが多かったそうで、中でも子供達はチェスのコーチとともにアメリカにわたってきていたという。彼らは独特なワザを多く持っていたそうだ。例えば、試合中にロシア語で何かを言う。コーチとロシア語で何か話す。机の下で相手の足を蹴る、等々。一度、ジョシュとロシア出身のプレイヤーがアメリカ代表としてインドの大会に参加した時、他国からアメリカへの抗議が殺到したそうだ。

もちろんジョシュはそういった戦い方を嫌ったが、対戦相手がそうである以上、何か対策を練らなければならなかった。そしてこの「気をそらすもの」との戦いが、本書の最大のテーマである。つまり『ボビー・フィッシャーを探して』という映画の成功は、ジョシュに一層の「気をそらすもの」対策への傾倒を迫ったわけだ。

そのうちにジョシュは、普段以上の集中力が発揮される瞬間に気づく。それは「気をそらすもの」にどう対処するかによって現れたり消えたりする異常な集中力だった。気をそらされる、というのは、どうやら自分の感情やあり方と深く関わっている、とジョシュは考えた。そしてその頃、彼は太極拳とであう。

つづく

追記:書きました。その3

0 件のコメント:

コメントを投稿

コメントをどうぞ。古い記事でもお気軽に。