2008年10月9日木曜日

書評・トラスト立木『この国の経済常識はウソばかり』

金融システムの崩壊が心配され、世界の6中銀が協調利下げをしたり、日銀が何もしなかったりするさなか、二冊の経済書を読んだ。まずはこちらから。
cover
この国の
経済常識は
ウソばかり
トラスト立木


以前に著者が立木信という名前で書いた『若者を喰い物にし続ける社会』という本の続編と言って良いだろう。僕は『若者を〜』も読んだけど、説得力のある本だった(←細かいところは覚えてない)。著者は新聞記者らしい。前著からの主張と同じように、世代会計という方法を使って日本財政の現状を分析・解説している。その上で、如何に新聞やテレビで語られる経済ニュースが的外れであるかを、幾分センセーショナルにこき下ろしている。

そしてこのセンセーショナルな部分が、僕は気に入らなかった。
「日本国債の格付けは、欧米の主要格付け機関によると、長らくボツワナ以下でしたから、財務省としては気が気ではありません。」(p.126)
といった表現があるのだけど、一体だから何だというのだろう。こういった表現が結構唐突にでてくる。国内の金融機関に国債を安定的に買ってもらわないと金利が上がったり下がったりして大変だから、金融を完全に自由にはできない。という説明の直後に、先に引用した文が現れる。なんだかなあ。金融機関はその格付けを参考にして国債を買っているとは思えないし、一体何が言いたいのだろう。

僕が気になる点は他にもあって、デフレについて触れない、というところだ。
「価格は通貨によって計られます。その通貨の価値を激変させてしまうこと、つまりインフレは、価格の問題解決機能を強化するマジック、いわば金融のドーピング策です。」(p.129)
なぜこんな表現なのか本当に理解に苦しむが、まず思うのは、それを言うならデフレだって同じでしょう? ということ。著者がリフレ政策を支持しているのかどうかは、結局よく分からないけど、どうもデフレの害に鈍感であるのは間違いないようだ。それと、著者にとって関心があるのは財政であってこの国の経済ではないようだ。ま、これは印象でしかないんですけど。

頷ける主張もある良い本だとは思うけど、マスコミの中の人だものな、という諦めも感じてしまう。財政に焦点を合わせすぎで、必要以上に暗い未来を見ていると思う。なので、ただ煽っているだけじゃないのかと疑ってしまう。本のタイトル『この国の経済常識はウソばかり』は、本当にその通りだと思うけど、その犯人はジャーナリズムでしょ、とも思う。嘆息。

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